変革者

 そして今。
 ダーク・スターは目の前にいる。
「逃がすものか……」
 私の呟きが聞こえたものか、ダーク・スターが急に速度を上げた。 人間技では不可能なほどのスピード。私はその正体をすぐに看破する。
「……ウィンディ!」
 風を身に纏い、私は駆ける。 風に乗って地面すれすれを飛ぶその魔法は、むしろ簡易飛行術と言ってもいい。 ダーク・スターもまたこの術を用いて高速移動しているのだ。
 が、発動したのは奴のほうが上。 そのわずか数刻の間に、かなり彼我の距離の差は開いてしまっている。
 ふりむいたダーク・スターの、その鴉を思わせる仮面から覗く口が、かすかに歪んだ。 嘲笑。 勝利を確信した笑み。
 そしてそれは決して理由がない者ではない。 奴もまた私に匹敵する技量の持ち主。 そして同じ魔法を使っている以上、この差が埋まることはない。 これだけ距離を開けたのだから、後は適当な路地にでも逃げ込めば、奴の逃亡は完遂される。
 同じ術を使っていれば、の話だが。
「ウィアル・ウィンド!」
 ウィンディを発動させたままで、私はもう一つの魔法を発動させる。 吹き荒れる突風が私の身に纏う風の結界を後押しし、急激に速度を上昇させる。
「魔法の同時展開、だと!……」
 驚くダーク・スターの横に追い付き、私は宣告する。
「ダーク・スター。サブランの御名により拘束することを宣ず」
「つ……サンダーボルト!」
 返答は、呪文詠唱無しの雷撃魔法だった。 それを回避するため、一瞬ダーク・スターと私の間に空間が出来る。
 その隙を縫って、ダーク・スターが飛翔する。ウィンディを利用した飛行。
「逃がすか!」
 私もまた飛翔する。 この程度のこと、私にとてたやすいことだ。
「……やるものだな」
 空中で既に待ち構えていたダーク・スターが、感心したような声を上げる。
「お前こそ、ただのこそ泥かと思っていたが、呪文詠唱無しで魔法発動できるほどの技量の持ち主とはな」
「あまり人を甘く見ないほうが良いな。 貴様に出来る事だからと言って、他人にそれが出来ぬ道理もあるまい」
 言うダーク・スターが、呪文を唱え始める。 大抵の魔法なら呪文詠唱無しで発動できる奴が呪文を詠唱するとは、よほどの大技か……?
「ガスティ・エッジ!」
「オブジェクティブ・シールド!」
 奴の呪文の発動と同時に、こちらも耐物理攻撃魔法を発動させる。 光の盾が風の刃を遮り、一瞬で蹴散らされる。
 が、その一瞬の間に、私は自らの体を急降下させていた。 頭上を風の刃が通り過ぎていく。その行動に、私は戦慄した。
「そんな魔法まで街中で使うか、貴様!」
 ガスティ・エッジの威力を持ってすれば、建物の数軒は一瞬にして崩壊する。 そんなものを遠慮なしに街中で撃ち放つ奴の行為は、非常識と言っていい。
 が、奴は平然と笑った。
「だから空まで出向いたのだろう? ここなら遠慮なしに撃ち合えるからな!」
「その選択の仕方が、すでに非常識だ!」
 だが、奴の魔法の腕は確かに凄まじいものがある。撃ち合いは不利だ。ならば……!
「ウィアル・ウィンド!」

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