変革者

「ダーク・スター!」
「ふふ……来たな?」
 今夜も、もはや恒例となったかのような戦いが繰り広げられていた。 ダーク・スターと私の一騎打ち。もっとも、それは私が狙った訳ではない。 単に、我々のレベルに付いてこれる隊員がいなかったからだ。
「どうした? 今日はキレが無いな」
 ダーク・スターなどに言われるまでもない。 自分がこの戦いに集中できていないことは、自分自身が一番よく分かっている。 そして、その理由も。
 昼に聞かされたリューグ先輩の言葉。 それが生んだ疑念が、私を捕らえているのだ。
「まあいい……ちょうど、な」
「何を言っている、ダーク・スター!  ウィンディ!  ウィアル・ウィンドッ!」
 風に乗り、私はダーク・スターに接近する。 しかし、奴のほうが上手と分かっている白兵は挑まない。
「ブレイズッ!」
 灼熱光が相手を襲う。 近距離からの広範囲魔法で確実にダメージを与える。この回避は難しいはず。
「……オブジェクティブシールド」
 だが、ダーク・スターも光の壁でそれを迎え撃つ。 相殺される二つの光。閃光があたりを覆う。
 ……これを私は狙っていた!
「ウォーティアル!」
 水流がダーク・スターを捉える。そこにすかさず、
「ブリザードっ!」
 吹雪が水流を凍りつかせ、氷の壁がダーク・スターの体を包み込む。
「……考えたものだな」
 体の八割近くを氷に囚われてなお、ダーク・スターは悠然と微笑んでみせた。
「で、どうするつもりなのだ?」
「悪いが、死んでもらうことになる。恨むならターナー家を……」
 言いかけ、あまりにベタな台詞に自分で苦笑する。
「いや、それは責任転嫁だな。殺すのは私だ。私だけを恨め。世界を恨むな」
 私は手を上げる。手の平を相手に向けてかざす。 そこに魔力を集中させる。これはさすがの私でも呪文詠唱無しでは発動できない大技だ。
「我進むは王の道。 その道を妨げし者、全て消去せん。 紅蓮の舞は地を揺らぎ、天はその蒼きを紅に焼き尽くさん……」
 奴の体を覆う氷ごと蒸発させる。 私が操る呪文の中でも、おそらく最高の威力を持つこの技。 これで、仕留めるっ!
「ロード・オブ・ファイアァ……」
 その時、ダーク・スターが小さく言った。
「発動」

 そして、この小さな世界が変容した。

「この事態を招いたのは貴様の失策だぞ、ええっ!」
「……申し訳ありません」
 私にできることは、ただ頭を下げる事だけだった。 だが、ターナー家の男は容赦しなかった。
「頭を下げればそれで済むレベルではない!  貴様は今、ここがどういう状況になっているのか分かっているのか?
 あの時を境に、我々は魔法が使えなくなったのだ。 貴様なぞは知らんだろうがな、このエッセンシャルランドは五芒星の魔方陣に覆われている。 力を内に向け、増幅する結界だ。そのおかげで、我々は魔法と言う恩恵に預かれたのだ。
 それを奴は、『解放』の六芒星の結界によって、中和してしまった。 おかげで我々は、火の玉一つ起こすにも一々呪文を唱えなければならんほどだ。 まして、大量破壊の魔法など使えん!
 貴様、市民の混乱が分かっているのか?  今まで当たり前だと思っていた力が失われて、あちこちで暴動が……」
「……じゃあアンタは何をした?」
「なに?」
 もはや我慢がならなかった。私は立ちあがり、言葉を極めて非難した。
「アンタらターナー家は、支配者面してたアンタ達は、一体何をしたんだ?  奴の行動を防ぐために、何をしていたんだ?  今だって、ただ市民の暴動を力づくで押さえてるだけじゃないか!」
「なっ……貴様っ!」
 人を面罵する事に慣れているこの男は、よもや自分がここまで面罵されるとは思っていなかったようだ。 だが私は構わずこう言い放った。
「奴の事は私が決着をつけよう。だから貴様は口を挟むな!」

 部屋を退出してなお、私の不快感は晴れなかった。 理由はただ一つ。 今の非難も、結局自分の責任転嫁に過ぎないと、分かっていたからだ。
 あの時。
 あの時ダークスターは、魔法が発動しなかった私の驚きを尻目に、悠然と氷を砕いて去っていった。 一枚の紙を残して。
 その紙を手に取り、私は改めてその文面を眺めた。 たっぷり三度はその文を読み、そしてそれをポケットに戻した。 もはや結論は決まっていた。
 行くしか、ない。

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