変革者

「エッセンスを、落とす」
「なっ……」
 あまりに突飛な事に、私は理解がついていかなかった。 彼はそんな私の様子に構わず、陶然とした様子で語る。
「この世界と重なる、別の世界。かつてそこは行き来ができたが、サブランによって封じられたという。 だがそれはあくまで通路が、の話にすぎん。が、悲しいかな。私にはその封印された場所が分からん。  だから私は決めた! 自分でその通路を作ろうと!」
「それとエッセンスを落とすことに何の関係がある!」
「二つの世界は非常に近い。そこに強いエネルギーが加われば、次元が歪んで新しい通路ができるかもしれん。 そう……例えば巨大な質量が落下したエネルギーなんてものは、どうかね?」
「無茶苦茶だ……」
 そう。無茶苦茶だ。エッセンスの問題だけではない。 落下した付近にも膨大な爆発が起こる。それに、五芒星の結界を失ったエッセンスそのものも耐え切れまい。
 第一、リューグの言うことはあくまで理論だ。 実際にそんな偶然が起きる可能性は、針の穴を象が通るよりも遥かに少ない。 しかし、彼はこう言いきる。
「違うな。これは賭けだ。歴史の成功者達は、みなこの賭けに勝って名を残して来た。そして私も!  さあアルフ。君も私とともに行こう。新たなる理想郷に!」
「……やっと、私にも分かった」
「なに?」
 私は奴の目を見つめて、断罪の言葉を吐き出した。
「あなたは夢想家じゃない。ただの誇大妄想者だ。  あなたは気付かなくてはいけなかった。 新たなる世界とやらに何があるのか。もし、その世界にも人がいたらどうする?  あなたはそれを占領するのか?  いや……たとえいなくても変わりはない。 そこにいるのが人である以上、同じ過ちは繰り返される。 人が人であることから逃げ出した、あなたに人を語る資格はない!」
「君も私を理解してくれないのか! 私の崇高なる理想を!」
「理解などできるものか!  あなたはただ、自分の思い通りになる世界が欲しかっただけだ。 子供が夢想する、自分に都合の良い世界。あなたはサブランになりたかった。あなたは……」
「創造の前には破壊が必要。そんな簡単な真理も分からんとは……所詮君も愚民と言うことかあっ!」
 続けざまに雷が落ちる。私はそれを避け、笑ってみせた。 今の三流悪役に成り下がった奴になら、負ける気はしない。
「……風よ、世界を駆ける翼よ。  その翼を鋼と化して我の命に従い引き裂きたまえ。  鋼の翼の前に敵は1人もなし!」
「ムダだあっ!」
 そう。たしかに今の魔力では、せいぜい風の刃を一つが限度だろう。 そして奴はそれをかわすだけの技量を持っている。
 だから私は、剣を振りかざした。
「ガスティエッジ……斬!」
 振り下ろした剣は、むなしく宙を斬る。 奴は後ろに飛びのいていた。その刃先は、かすってさえいない。
 が、それで十分だった。
 倒れ込む奴の血飛沫が、私の腕を紅く染めた。その顔は、疑問に満ちている。
「ど、どういう……?」
「魔力剣……そうだな、風斬撃とでも呼んでくれ」
 炎などを刀身に纏わせ剣の力を上げる魔法剣。 その存在を知った私は、ひそかに練習を重ねていた。そして今、それが役に立った。
 刀身に纏わせた不可視の風の刃。それは刀身の先まで伸び、奴の胸を斬りさいたのだ。
 奴の敗因。それは目に見えるものしか見ようとしなかったこと。
「ち……まだっ!」
 血に濡れた手で、奴は宝珠を掴み上げた。そこに魔力解放の呪文を唱えようとする。
「させるか……風斬撃っ!」
 私の一撃は宝珠を一撃で砕き、そして……。

 爆発!

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