日常

ゴォオオオオッ!
 周りは火、火、火。 全てを奪い尽くす業火があたりを真っ赤に染めていた。 僕は確か・・・
「若様、何をしておるのです!」
 50代半ばの白髪混じりの爺に連れられ、屋外へと避難する。 金銀宝石を豪勢に使った建物は炎の前に成す術もなく僕めがけ倒れ掛かってくる。 その間を走り避けていくのは何だか自分がまるで映画に入ったかのような感覚だ。
ガッシャーン
「イタッ・・・」
「大丈夫ですか!?」
 ガラスで出来た巨大な灯が目の前に落ちてきたのだ。 ガラスの破片が豪快に辺りにまき散らされてるのを見れば、何が起こったのは言うまでも無い。
 たいした傷ではないが、身体から染み出る真紅の血液はまるで自分が炎に同化したよう。 生への執着を弱らせるには十分すぎた。
「若様、早くしなければ追いつかれますぞ!」
「爺、もう駄目だ。ここで僕は果てる。」
 ガバッと僕の服をつかみ、顔を物凄く近づけて爺は言った。
「若様がいなくなったらこの国はどうなるのです!  国王陛下はもうこの世にいないのです。  貴方様が、生き残らなくてどうするのです!」
真剣な眼差しだった。
 その時、
「皇子を見つけ出せ!褒美はいくらでも出るのだぞ!」
 もうすでに敵兵は迫っていたのだ。
「行きましょう!希望を絶やさない為にも。」
 彼の言葉に僕の身体はようやく自由を取り戻した。 再び、2人で駆け出した。
「いたぞ!かかれぇえ!」
「わぁああ!!!」
 いくらいるとも分からないおびただしいほどの敵兵がいる。 あいつらに武器は合っても、こっちは・・・
丸腰だ。
 どれだけ彼らが訓練を積んでいるかは分からない。 確かに言える事は、かなり統率が取れているということだ。 こんな武器なしの2人の為にその訓練が施された敵兵が襲ってくるのだ。 一体何のため?一体・・・?
 もうすぐ、出口という時だった。
「爺はここを守るゆえ、若様は早く!」
「何を言っているんだ!お前一人が欠けても・・・」
 出口に立つ彼を見ようと振り返ると、敵兵が走ってくるのが見えた。
「もう爺は走れないのじゃ。せめて若様の為に・・・」
「約束したじゃないか、2人で国を――うわっ!」
「若様、すみませぬ。こうするしか爺には・・・」
 盛大に階段を落ちていく僕を見ながら独白した。

 僕は目の当たりにしてしまった。 爺の死を。
 鮮血を飛び交わせながら、彼の身体は階段の上から落ちてきた。 次は・・・僕がああなるのか?
「爺のばっかやろぉおおおっ!」
 涙やら、なんやらもう訳わからなかった。 ただひたすら逃げた。 外に出ても空は赤に染まっていた。 城内にもすでに火の手がまわっていた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ―――」
 城の中でもかなり外れた所にいた。 外に出ようともしたが城門は既に全て敵の手に落ちていた。 もう、お終いだ・・・ すでに軍靴の音は辺りに響き始めている。
 もうすぐ、僕も。 すまないな、爺。
「いたぞ!」
 その声を合図に敵兵が走ってくる。 すぐに周りは囲まれた。 もう、逃げ場は無い。
「観念しろ!」
 急に出てきた汗が、全身を流れる。 なぜ、死ななきゃいけないんだ? なんで!
ヒュゥウ

ドクッ、ドクッ、ドクッ
 激しく心臓がビート音を刻んでいた。 風でカーテンがゆれていた。  外は綺麗な夕焼けで染まっていた。
「夢か・・・」
 起き上がると、開きっぱなしのノートと教科書があった。 そうだ、宿題をやらなきゃな。 それは、明日までの宿題。
 夢であったような争いの無い明日。 それが日常の僕は幸せなのかもしれない。

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